【コラム】法的債権回収をめぐる現場から~民事再生計画の認可決定に対する即時抗告事案

 1 バブル崩壊と倒産法制の整備


今から30年以上も前の出来事、「バブル崩壊」とは平成2年(1990年)10月の株価暴落であるという人もいれば、遅くとも平成3年(1991年)には崩壊していたという人もいます。
株価だけではなく、不動産価格も暴落し(それ以前が暴騰しすぎていたのも事実ですが)、以降、10年以上にわたってこの余波が及び、企業や個人の破綻処理が長く続くことになりました。

かつて、債務者破綻による簡易な再生制度として和議法がありましたが、和議条件の履行を確保するための有効な手段が存在しないため、結局、なし崩し的に債務が帳消しになるに等しいと憂いた債権者が多かったようです。

バブル崩壊後の破綻処理の中で、いわゆるモラルハザードを回避すべく、平成12年に和議法に代わる民事再生法が施行され、また、任意整理の際の一つの指針とすべく「私的整理ガイドライン」もできました。しかし、「私的制度ガイドライン」は、経営者責任等を厳しく追及する原則論に忠実に沿うことを定めたため、使われることは稀で、債務者再生の手段としては、裁判所に対する民事再生の申立てが頻繁に行われることになりました。

民事再生法の施行から3年目の平成14年には、東京地裁(民事第20部民事再生係)だけでおよそ380件の申立てがあったようです。

これだけの申立てが集中すると、裁判所における事務処理も大変な量になります。
もともと、破産手続等を含め、倒産処理の中心は裁判所から委託された弁護士(破産管財人や監督委員)頼みにならざるを得ず、裁判所はいわば「外注」に頼らざるを得ない制度的宿命にあります。

その中で、重要なポイントを見落とさず、管財人や監督委員を監督できるか否かにおいて、裁判所(担当裁判官)の力量が問われることになります。
民事再生法は、和議制度の反省を踏まえ、再生手続が頓挫した場合において、裁判所が破産手続開始の決定をすることができると定めるなど簡単に債務逃れができないような制度的担保をしましたが、民事再生手続に限らず、裁判所による実際の運用において適切な判断がなされなければ、和議同様になし崩し的な債務逃れの制度であるとの批判を免れないことになります。

ここでご紹介する事案は、金融・商事判例No.1173号、9頁~に詳しく掲載されています。倒産事件を担当している一審裁判所が下した再生計画の認可決定に対して、即時抗告をした事案です。

 2 民事再生申立てに至る経緯


依頼者である債権回収会社は、債務超過となっている債務者(株式会社であり民事再生申立人)に対して多額の債権を有しており、債権回収の一環として、その債務者の関連会社に対して2億6000万円余の債権者代位請求訴訟を行っていました。

債務者が、その関連会社に対し、多額の債権を有していたので、その代位請求訴訟を行っていたのです。債務者の抗弁は、確かに代位請求されている債権は存在したが、関連会社から債務者に対する損害賠償請求権などの反対債権があったので、これと相殺する趣旨で免除したとの内容でした。

やや微妙な言い回しの抗弁ですが、会計書類上は免除となっており、どうしてそうなったかの理由を説明するとすれば、「反対債権と相殺する意図であった」、というところでしょうか。債権回収会社は、損害賠償請求権(反対債権)の存在を争うとともに、免除したのが事実であれば、それは詐害行為に該当するということで、詐害行為取消訴訟を追加しました。

そして、債権回収会社は、上記の訴訟を提起する前に、関連会社の資産(1億3000万円相当)につき仮差押をしていました。関連会社に対する請求は、絵に描いた餅ではなく、およそ半分は現実に回収できるものと見込んでいたのです。
このような折、債務者から民事再生手続の申立がなされました。

 3 再生計画案の内容


債務者による民事再申立の意図は、再生計画案を見ることにより推し量ることができます。
再生計画の原案は、申立人である債務者と、その代理人により作成されます。再生計画案を見ると、再生債権について、その元本の99.75%と利息・損害金全額の免除を受け、元本の0.25%に相当する約1200万円を6か月以内に一括弁済するという内容でありました。

民事再生法140条には、再生債権者の提起した詐害行為取消訴訟について、監督委員がこれを受けつぐことができる旨の規定がありますが、再生計画案では、敢えてこれを受継しないものとしていました。
つまり、関連会社の資産まで回収の原資とされることは何とか回避したいとの意図が見えました。

関連会社の資産1億3000万円相当を仮差押しているにもかかわらず、たった1200万円の一括弁済で逃げ切ろうとしている。債権回収会社の目にはそう映ったに違いありません。
しかし、監督委員も、この再生計画案を支持する報告書を提出しました。
その理由としては、詐害行為取消訴訟の勝訴可能性が乏しいとの評価や、仮に勝訴しても仮差押えられた資産に執行されると関連会社の破綻は免れず、その際の清算配当率が12.74%に過ぎないことが挙げられていました。

再生計画案は、再生債権者の議決に付され、法定の多数により議決された場合には、裁判所による認可決定の判断に委ねられます。
債権回収会社は、再生計画案の根拠とされた再生債務者や監督委員の主張に全面的に対抗する意見を提出しましたが、再生計画案は賛成多数で議決されました。

それでも、裁判所の判断により再生計画案が認可されない可能性は残っています。
民事再生法174条2項4号で、再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するときは、裁判所は再生計画不認可の決定をする旨定められています。

関連会社に対する法的債権回収を進めた場合に、関連会社が本当に破綻するのか否かの見通しとも関わりますが、1億3000万円相当を押さえながら、1200万円をみんなで分けよとの再生計画は、再生債権者一般の利益に明らかに反するように見えました。

 4 地裁よる認可決定と即時抗告


しかし、一審裁判所(民事再生事件が係属している裁判所)は、再生計画を認可する決定を下しました。

その背景について、極めて主観的(独断的)な見方をするならば、やはり本質が外注により成り立っている制度であるということ(もちろん弁護士にとっては有難いことではあるが)、監督委員が認可すべき計画であると意見したことについては余程のことがない限り裁判所が尊重すべき構造にあること、年間300件以上も申立てがある中で事件の処理は流れ作業的にならざるを得ず内容の吟味よりも処理することそのものが目的化する実情があったこと、これらの事情が影響したように感じます。

債権回収会社は、再生計画の認可決定に対し、東京高裁への即時抗告を行いました。

問題は、高等裁判所が、即時抗告に対していかなる理由で、どのような結論を取ったかです。高裁による決定の内容は、金融・商事判例No.1173号、9頁~に詳しく掲載されています。関心のある方は、ご覧いただきたいと思います。

結論から申し上げると、東京高裁は原決定を取り消し、東京地裁へ審理を差し戻しました。詐害行為取消訴訟は、仮差押えと相まって単なる絵に描いた餅ではなく、それなりの回収可能性があるので、一審裁判所は債務者に対して再生計画の修正を求めるべきであるとの意見も付されました。

仕切り直しで作成された再生計画では、詐害行為取消訴訟を監督委員が引き継ぐべきものとされ、実際に監督委員が訴訟を受継し、債権回収会社は監督委員に補助参加しました。

その結果として、関連会社からかなりの回収を図ることができ、再生債権者らは、依頼者である債権回収会社に限らず、相応の弁済にあずかることができたのです。

 5 本件をふりかえって


制度の運用の初期においては、その時代背景に押されて何かと極端な運用に走るケースがないとは言えないように思います。
全く個人的な感想ですが、あの当時は、民事再生手続において、事件の処理そのものが目的化していたのではないかと推察されます。それほどまでに申立件数の増加が顕著であったということ。時間の経過とともに、自ずと運用の揺り戻しはあると思います。
現在の民事再生手続の運用は、より成熟しているように感じます。         

(おわり)

文責:木皿 裕之

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