事案の概要
不動産会社が購入した土地の隣地との境界確認に関する事案です。
隣地は細長い空地(10㎡ぐらい)で法人や複数自然人の共有名義でした。
前の所有者の不動産会社は専門家に依頼して一部の共有者との間では境界を確認することができましたが、登記の名義人の中には行方が分からない人や既に相続が発生している人がいて途中で断念した事情がありました。現況の測量結果や公図等から見ると,一部の共有者との間で確認された境界が正しいと思われる状況でした。
解決への流れ
共有者の中で行方が分からない人がおり、かつ、複数の方に相続が発生していた(さらに代襲相続が発生していた場合もありました)ため、境界確定訴訟を裁判所に申し立て、判決をもらい、判決が確定することによって境界も確定しました。
弁護士コメント
土地の境界については,過去にはあまり気にされなかったこともありますが、売買の前に定めることが多くなってきました。
マンションやビルについてファンドが関わることが増え、土地の境界の確認ができていない物件は取引対象とはしないルールで対応したことや世の中の風潮として不動産の管理を正確に行うことが好まれるようになってきたこと等が背景事情にあると思われます。
土地の境界確認は、土地家屋調査士の関与により、隣地の所有者と文書で確認を行うことが一般的ですが、土地の登記を見ても隣地所有者がわからないときや行方が分からないときもあります。
土地の登記については、近年相続登記が義務化され,登記と実態を一致させる方向性となっていますが、義務化以前は相続が発生しても登記されないことも多く、所有者がわからなくなってしまっていることも珍しいことではありません。
通路や私道等として使用され近隣土地の所有者が共有している土地は、極端な場合だと、売却の際、忘れられ共有地のみが放置されていることもあります。
今回の隣地も共有地で、近隣に住んでおられた共有者の方からは通路として使われているという話を聞きました。
行方が分からない人については、その土地の周辺に名義人の関係者が居住していて協力を得られるような状況でもなかったので、登記名義人の情報を収集できるか、職権で調べることになりました。
相続が発生している人については、登記名義人の戸籍にたどり着けたので、戸籍を追って相続人を探しました(いわゆる相続人調査)。一つ一つ戸籍を追うことになりますから、かかる時間や費用も事前に予測不可能ですが、膨大な量になりました。
行方不明の人は、登記名義人の戸籍にたどり着くことさえできず、裁判所に不在者財産管理人を選任してもらうことにしました。
土地の共有者がはっきりすれば、境界確認の方法を検討する必要がありますが、共有者が多数(今回は数十人になりました)に及びしかも事情が分からない人が多数いる場合には、相対で境界確認書の締結を依頼することは現実的ではありません。
法務局による筆界特定制度で境界を決めてもらうことも可能ですが、筆界特定制度は、結果について当事者が納得しなければ訴訟となる危険性もあります。
そのため、最初から境界確認訴訟を提訴し、裁判所の判断を求めることにしました。
共有者全員を被告として訴える必要がありますから、まずは不在者財産管理人を選任してもらった後で訴訟を提起しました。事情をご存じではないと予想できた相続人の人には事前に説明の書状をお送りし、ご連絡をいただいた人には対応いたしました。
訴訟を提起しても、数十人に及ぶ被告となると、裁判所の訴状のチェック自体にも時間がかかります。被告適格を確認するために、大量の戸籍謄本を確認してもらうことが必要になり、相続関係図を参考書類として作成し、戸籍謄本類との関係を示したうえで、訴状の当事者目録の記載方法や訴状の提出方法(訴状の通数や納付する郵券額等)を含めて裁判所と密に連絡を取って対応しました。
裁判所が訴状を送達した後も、被告となった人が不在で送達ができないことや、ご家族からの連絡により高齢で施設に入られていて訴訟能力が疑わしいことが分かったこともありました。
不在で送達できない人は、その場所に住んでいるかどうかの現地調査が必要になりましたが、依頼人に迅速な協力をお願いしました。訴訟能力が疑わしいことがわかった人には、裁判所に急ぎ特別代理人を選任してもらいました。
本件では、一部の共有者との確認した境界が確からしいとの状況があり、事情をご存じでない相続人の人も関心が高い内容ではなかったため、訴訟を提起した後は比較的短期間で判決を得られ、そのまま確定しました。訴訟を起こす前の準備(隣地所有者の確認)や提訴後第1回目の期日までの準備に注意が必要な事案でした。
以 上








