上場会社による子会社支援と撤退判断に関する取締役の善管注意義務をめぐる紛争

 事案の概要


上場会社であるA社は、子会社による新規事業を推進するため、子会社であるB社およびC社に対して、複数回にわたり貸付けおよび増資を行い、その総額は10億円を超えました。

しかし、B社およびC社が取り組んだ各事業は、いずれも期待された成果を上げることができなかったことから、A社は、両社をグループ外に売却し、各事業から撤退しました。

このような状況を踏まえ、A社の株主が、子会社への資金支援を承認したA社の取締役らに善管注意義務違反があるとして、会社法423条1項に基づき損害賠償請求を求めることになりました。

 解決への流れ


子会社の新規事業に関する貸付けおよび増資の判断をめぐり、取締役の善管注意義務違反が問われた代表訴訟において、取締役側代理人を務めました。

本件は、地方裁判所および高等裁判所において実質的な審理が行われ、いずれの裁判所においても、取締役としての善管注意義務違反は認められないとの結論に至りました。
公刊物では高等裁判所の判例は紹介されていないようですが、本判決はすでに確定しております。

 弁護士コメント


裁判では、過去の裁判例が示す「善管注意義務違反の判断枠組」を意識しつつも、新規事業の必要性や特徴を前面に押し出した主張を展開しました。特に、子会社が新規事業に挑戦する際の状況に応じた考慮事項や視点の変化に着目し、経営感覚に即した法律論となるよう務めました。

さらに、「ブルー・オーシャン戦略」や「不確実性を克服する科学的思考」など、Harvard Business Reviewの経営論文を参考にすることで、表面的・形式的な議論に留まらず、経営の本質に根ざした議論を展開しました。

本件は、金融・商事判例(1575号14頁、1601号2頁)や商事法務(資料版2019年11月号17頁)などにも掲載されています。

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